投げ入れられた!?お堂
全国各地、神社仏閣には、さまざまな謎が隠されているものですが、そんな中でも特筆ものの、未だ科学では解明できない摩訶不思議なお堂として有名なのが、鳥取県の三徳山の奥深くにある天台宗寺院、「三仏寺(三佛寺)」にある国宝の「投入堂」です。
地味な建物ではありますが、その姿を見れば、「あぁ~あれか!」と、多くの方が一度はテレビや雑誌でこのお堂を目にしているのではないかと思われます。過去にNHKの『行く年くる年』でも、ここから中継があったような気がしますし、『国宝への旅』にも登場しました。どちらかというとNHK向き!?といった匂いがするお堂ですが、実際にこのお堂を直接目にしようとすると、そう簡単にはいきません。
わたしは幸運にも初めて訪れた日にお目にすることが出来ましたが、天候や時間の制約、体力的な問題から目にすることが出来ずに引き返す方も多いようです。中でも歩くといよりは、よじ登るという場面も多々あるこのお堂への道のりは少々険しく、このことが三仏寺投入堂が謎多きお堂である理由のひとつにもなっています。そしてその謎は、このお堂を目にした瞬間にさらに深まっていき、この投入堂が謎多きお堂として有名な訳が自ずと明らかになってきます。
断崖絶壁の岩窟に、まるではめ込んだかのように建つこのお堂は、学者や建築家が様々な説を唱えるものの、未だその建造方法が謎とされています。投入堂の建つ岩肌には、足場が組めるような場所はなく、ここにたどりつく悪路続きの道のりを考えると、どのようにしてその資材を運んだのかも不明とされています。その上これが、今から1000年以上も前の遥か昔の出来事となると、謎は深まるばかりです。
そんな中、ある意味最も的をえた答えとなっているのが、三徳山三仏寺に古くから伝わる役小角が法力をもって投入れたという言い伝えです。そしてこの逸話から、この不思議なお堂に投入堂の名が付いたとされています。
参道という名の登山道
NHK特集や旅番組など、その神秘性から数知れずテレビにも登場してきた三仏寺にある不思議なお堂は、鳥取県を代表する温泉地である三朝温泉から、山あい奥深く入ったところにあります。温泉地から鳥取市街地へと抜ける山道を進んでいくと、やがて目指す山陰屈指の古刹が右手に見えてきます。
三仏寺の入口自体は、よくある山間部のお寺という感じでごくごく普通の印象なのですが、参道を抜け三徳山の登山口から中に入ると、その様相は一変し、その先にこの謎多きお堂である、三仏寺の奥の院である国宝の投入堂があります。
この三仏寺投入堂だけを見れば、単なる舞台建築のお堂であり、一見どこにでもありそうな佇まいの建築物なのですが、実はこのお堂にたどり着くには、参道という名の山登りが必要となります。一般の参拝とは異なり、住所や名前、緊急時の連絡先などを記入する登山者としての受付が必要となり、このことだけでもこの先の道のりがどれ程のものなのか、容易に想像できるかと思います。
明らかに様相の異なる雰囲気を漂わす門をくぐり入山すると、そこには入口から本堂までの平坦な参道とは全く異なる光景が広がっており、この山が修験道の行場であることを改めて思い知らされます。
三仏寺投入堂への道のりは、標高差だけ見ると500mと大したことはないように思われますが、その登山道の途中には、「カズラ坂」や「クサリ坂」など、木の根や鎖をつたい崖をよじ登るという箇所があり、歳を増すごとにキツくなってくる、ちょっと体力が必要な山登りとなります。
両手両足が自由になる服装とそれなりの靴も必要となり、この登山道に挑むにはそれ相応の準備と心構えが必要となりますので注意してください。間違っても片手にビデオカメラ、子供の手を取って…なんて余裕はありませんので、訪れる際には事前に充分情報を仕入れてから挑戦してみてください。
微妙な傾斜がキケン!
そんな投入堂までの道のりは、道すがら「文殊堂」や「地蔵堂」「鐘楼堂」「観音堂」「元結掛堂」など、お堂を1つづつ巡りながらのコースとなります。それぞれのお堂がひとつひとつ個性ある造りとなっており、とても魅力的な建物となっていますので、先を急がずに休憩がてら立ち寄ってじっくりと見て欲しいところです。
特に文殊堂の四方の板張りの床に座り、ひと息つきながら眺める山間の景色はオススメです。ただし、お堂の周りをぐるりと一周まわれるのですが、幅1m無いくらいの板張りの床となっていますので、誤って落下しないように充分気をつけてください。
もちろん手すりなんてありませんので、その先は、まっ逆さまとなりますので、くれぐれもすれ違う際などは慎重にお願いします。排水の関係か、長年の歩行による荷重のせいかわかりませんが、この床は微妙に外に向かって傾斜していますので要注意です。人によっては怖くて歩けない人もいるかもしれませんので、くれぐれも強要したりふざけたりしないようお願いします。
わたしも訪れた際には、足を投げ出しここに座り、しばらくボーっとしていましたが、背後を人が通るたびに、ゾクゾクっとしました。冷静に考えば、こんなに危険でいいのだろうか?よく今まで何事もなく…と思ってしまいましたが、次の瞬間、だから入山受付をしたわけで自己責任である登山なんだよな…と。
ますます謎が深まる投入堂
幾つかのお堂を巡りながら頑張って登っていくと、やがて投入堂を示す看板が見えてきます。はやる気持ちを抑えつつ、最後の岩肌をぐるりと回り込むと、一気に投入堂の姿が目に飛び込んできます。
苦労してここまで来たこともあり、眼前に投入堂が現れた時の感動は、何倍にも膨れ上がりますが、何より意図的ではないにしろ、徐々にその姿が見えてくるのではなく、最後の岩肌をぐるりと回り込むといきなりドーンとくるこの自然の演出に感謝するしだいです。この感動はうまく言葉では表せませんが、息を呑むとはこういうことを言うのだな…と、改めて思ったものでした。
そんな投入堂をしばらく眺めていると、やがて興奮のおさまりとともに謎が深まっていきます。この投入堂を望む場所から実際に投入堂が建っている場所までは、さらに危険な道のりで通常は行けないのですが、以前テレビでお堂内部への進入方法を見たことがあり、それを思い出しつつ目の前の光景に目をやると、最後の最後に完全に垂直な岩肌を登ってやっとたどり着くというこのお堂の姿に、
・なぜこんな道のりなのか?
・なぜ本堂から遠く離れたこの場所なのか?
・なぜこの建築様式なのか?
・本当にどうやって造ったのか?
・そしてこの三仏寺投入堂は、何を意味し何のためにここに建てられたのか?
など、謎は深まっていくばかりです。しかも建設当初の投入堂は、柱はベンガラ色に塗られ、壁は白く、垂木の先端は金色に輝いていたとされ、今とは全く異なる華やかなイメージのお堂だったとされています。
謎が謎を呼び頭がおかしくなりそうですが、是非とも謎解きにチャレンジしたい方は、幽玄かつ神秘的なこの三仏寺投入堂の光景を目の当たりにすべく、三仏寺投入堂へのプチ登山にチャレンジしてみてください。
世界遺産登録に向けた動きもあるようですが、2015年4月24日には「六根清浄と六感治癒の地 ~日本一危ない国宝鑑賞と世界屈指のラドン泉~」として、文化庁により『日本遺産(Japan Heritage)』に認定されました。是非とも後世に末永く、この謎多き建物が受け継がれていくことを願うしだいです。